講演(動画配信) 難病医療における遺伝学的検査の現状と課題

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2021 年2 月27 日10 時~3 月13 日17 時

講演1 難波班の活動報告と難病遺伝子パネル検査の提案

難波 栄二(鳥取大学 研究推進機構 研究戦略室 教授)

座長:松原 洋一(国立成育医療研究センター 研究所長)

[抄録]
 2018年12月に検体検査の精度管理に関する医療法が改正され、従来の研究の延長線上として実施されていた難病の遺伝学的検査の見直しが必要となった。その対応のために、難…続きを読む波班が2018年10月に発足し活動を開始した。本研究班は難病領域の遺伝学的検査に関する品質・精度確保を検討し、その検査体制の充実を図りゲノム医療の推進に貢献することを目的としている。初年度には、情報提供のためのホームページを立ち上げ相談窓口を設けた。さらに、2019年2月11日には、シンポジウムを開催し情報提供を行った。研究2年目には次の活動を行った。難病班等へのWebアンケートや施設の個別調査などを実施し、登録衛生検査所、医療機関、研究などにおける遺伝学的検査の現状を把握し今後の体制についても検討した。検査の品質・精度確保の向上のために英国や米国の充実した体制の調査を行い、日本の体制について検討した。また、指定難病の診断基準に掲載されている遺伝学的検査について検討し、保険収載の拡充その妥当性を検討した。令和2年度診療報酬改定で保険収載された難病領域の遺伝学的検査の体制の拡充を行い、この情報をホームページに掲載した。難病領域の遺伝学的検査の実施施設の情報を提供する検索サイトの構築を行った。また、IRUDなどのゲノム研究の結果を診療に用いるための提言(案)も作成している。
 そして、難病領域の遺伝学的検査を診療に役立てる体制を充実させるためには次世代シークエンサー(NGS)による遺伝学的検査の実装化(保険収載)が必要になる。そこで「指定難病遺伝子パネル検査」としてエクソーム解析のデータから指定難病遺伝子の候補バリアントを抽出する機器プログラムの開発を構想している。本検査結果を診療に用いるための体制として難病エキスパートパネル(仮称)を備えた難病ゲノム医療拠点病院(仮称)が必要と考えている。難波班は本年3月で終了となるが、全ゲノム計画の中においても難病ゲノム医療のための拠点病院構想も示されており、難病の遺伝学的検査のさらなる発展を期待する。…折りたたむ

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講演2 難病の遺伝学的検査実績とNGS 検査の精度管理について

小原 收(かずさDNA 研究所 ゲノム事業推進部 副所長 兼 部長)

座長:原田 直樹(京都大学 iPS 細胞研究所 准教授)

[抄録]
 臨床研究として長く共同研究を進めていた原発性免疫不全症・自己炎症性疾患の遺伝学的検査が保険収載された平成28年をきっかけとして、演者はそれまでの基礎研究の領域か…続きを読むら遺伝子解析技術を臨床検査として社会実装する活動に自らの活動の軸足を移した。さらに、改正医療法の施行に伴い、その遺伝子解析を「研究」としてではなく、「業」として希少難病の遺伝学的検査の我が国の受け皿となるために、登録衛生検査所を基礎の研究所内に立ち上げた。
 本シンポジウムを主催されている「難病領域における検体検査の精度管理体制の整備に資する研究班」の協力に支えられながら、令和2年度には新たに保険収載された遺伝学的検査をできるだけ多く追加実施する体制を登録衛生検査所内に構築し、検査提供している遺伝子検査数を継続的に拡大しながらほぼ1年間の実施経験を得た。こうした3年以上の遺伝学的検査の実施経験から、検査提供者側の立場から見た難病の遺伝学的検査提供の現実的な課題が明確になってきた。これらの点について、本講演では浮かび上がってきた課題と現時点で取り組んでいる解決策をご紹介したい。
 もう一つの演者の大きな課題は、次世代シーケンシング(NGS)という新しい技術による検査の精度をどうやって管理するかという問題である。演者はゲノミクスという研究領域の誕生と成長とともに研究者生活を送ってきた世代に当たるが、この問題は今後のゲノム科学を臨床的に活用していくために理解しておくべき非常に本質的な問題を内包している。それは、ゲノミクスという研究アプローチのロジックが、演繹とも帰納とも異なる、仮説形成推理と呼ばれるものである点である。その点も含めて、分析的な視点からNGSによる検査の精度をどのように管理していくかについての現状の方向性を考えてみたい。 …折りたたむ

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講演3 希少・難病のゲノム医療と大型研究
(IRUD 等):研究と診療の切り分け

要 匡(国立成育医療研究センター ゲノム医療研究部 部長)

座長:後藤 雄一(国立精神・神経医療研究センター メディカル・ゲノムセンター センター長)

[抄録]
 次世代シーケンサなど技術革新によるゲノム解析精度の向上、解析コストの低減等が進み、希少・難病を含めた精密医療の実現を目指して、網羅的ゲノム解析等を用いた大型研究…続きを読むが各国で進められている。わが国においても、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)、希少難治性疾患に関する全ゲノム医療の推進研究(全ゲノム8プロジェクト)などの大型研究が希少・難病を対象として実施されている。現在、これら大型研究で解析された患者のなかに、指定難病、小児慢性特定疾病などの原因遺伝子の明らかな病的バリアントが見出され、研究から診療への橋渡しが必要な状況が生じている。
 一方、わが国においては、2018年12月に検体検査の精度の確保に係る医療法等の一部を改正する法律(改正医療法)が施行され、診療として行われる検体検査の実施基準等が明確となり、米国と同様、研究における検査(研究解析)と診療における検査(臨床検査)は明確に分けて実施される時期にも来ている。
 ここで、わが国のみならず、研究で得られる解析結果は、研究における正確性、妥当性等は保証されるものの、診療の用に供する検体検査としての解析は行われてはいない。すなわち、研究は、未知の部分の探索などを、一定ではないさまざまな角度から、研究倫理に従って実施されるべきもので、改正医療法等の適応外であり、また適応してはならない。一方、臨床検査は、診療の用に供する検体検査として、臨床的妥当性など一定の評価が得られている確立された項目に対して、実施場所も含め、精度管理、分析的妥当性の評価など改正医療法に沿った体制のもとで実施されなければならない。
 わが国の難病ゲノム医療の実現へ向け、希少・難病に対する大型研究と診療は両者ともに進める必要がある。そこで、ここでは、両者の違いを概説し、現在の医療法に沿った形でスムーズに診療への受け渡しが行えるための、これらの切り分け等について議論する。…折りたたむ

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講演4 拡大した難病の保険収載遺伝学的検査と
マイクロアレイ染色体検査の臨床実装

黒澤 健司(神奈川県立こども医療センター・内科系専門医療部門遺伝科 部長)

座長:古庄 知己(信州大学 医学部遺伝医学教室 教授・医学部附属病院 遺伝子医療研究センター センター長)

[抄録]
 遺伝学的検査の保険適用は進行性筋ジストロフィー症DNA検査以降、2019年末までに75疾患に拡大し、さらに令和2年度診療報酬改定では65疾患が追加され、現在140疾患…続きを読むが知られている。対象は、客観的な診断基準が確立している指定難病が中心となっている。その適用要件には、1)分析的妥当性、2)臨床的妥当性、2)臨床的有用性、の3点が重視されている。それでもなお、多くの遺伝性疾患が保険適用とはなっておらず、研究としての解析に依存せざるを得ない。こうした状況から、今後も遺伝学的検査の保険適用拡大が期待される。そのためには、各疾患の診断基準における遺伝学的検査の位置づけの再検討や臨床サイドの検査に関する準備も極めて重要である。解析が複雑になればなるほど、網羅的になればなるほど、結果の解釈が重要となる。このことは、世代シーケンスによる遺伝子パネル解析を用いたがんゲノムプロファイリング検査で既に進められている体制と一致している。難病領域でもこの遺伝子パネル解析が次の課題となる。現在は網羅的な遺伝学的検査へ進む前の過渡期に相当する。こうした時期にあって、マイクロアレイ染色体検査の機器承認が得られた。これまでのLDTを中心とした難病領域遺伝学的検査では、一歩進めた形となる。そのためには上述のように、適切な解釈のための新しい体制とその運用が重要となる。将来の網羅的解析を視野に入れた遺伝学的検査の拡大が期待される。…折りたたむ

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講演5 難病遺伝学的検査の精度の確保について

宮地 勇人(東海大学 医学部基盤診療学系臨床検査学 教授)

座長:堤 正好(一般社団法人 日本衛生検査所協会 理事・顧問)

[抄録]
 ゲノム医療を実現するための取組みを推進するため設置された「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース(ゲノム医療TF)」会議での議論を踏まえて、検体検査の…続きを読む精度の確保に係る医療法等の一部改正(改正法)の公布に続き、具体的な基準は厚生労働省令(改正省令)による施行規則として公布され、これらは2018年12月1日に施行された。
法令改正を受けて、「難病領域における検体検査の精度管理体制の整備に資する研究」研究班の分担研究では、難病領域における課題として、医療法等改正に対応した診療における検査体制の充実と国際的対応などを目的とした。
 難病遺伝学的検査の課題対応として、改正省令に定める基準を満たすとともに、欧米諸国と同等の水準が求められる。そこでは、ゲノム医療TFでの意見取りまとめに述べられたごとく、遺伝子関連検査のための日本版ベストプラクティス・ガイドラインの要求水準が必要である。本ガイドラインは、「一般原則」と「ベストプラクティス」から構成される。「ベストプラクティス」は「一般原則」の実施における実務上のガイダンスの提供をめざすもので、その具体的な柱は、①検査の品質保証システム、②施設技能試験、③検査結果の報告、④検査施設要員の教育と訓練の基準である。
 検査の品質保証システムとして、難病領域では、次世代シークエンシングをはじめ検査室独自開発検査法(Laboratory developed tests: LDT)を適用範囲とした遺伝子関連検査のためのISO 15189施設認定および審査時の現地実技試験が必要となる。
 本シンポジウム講演では、難病遺伝学的検査の精度の確保への取り組みとして、第三者施設認定や外部精度管理など環境・体制整備における課題整理に基づく対応と展開、今後の展望について述べる。…折りたたむ

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